サヌカイト                                      


サヌカイトとは?

香川県坂出市東部にある五色台白峰山、金山及びその付近の山頂には、通称「かんかん石」として親しまれてきた石が産出します。
和名を「讃岐岩」といい、たたくと「カ−ン、カ−ン」と金属音を発し、心地よい余韻を残して響きます。
江戸時代の頃にはこの石を「馨石」(けいせき)とも呼び親しんでいたようです。
1891年にドイツ人の鉱物学者ヴァインシェンクが、ナウマン象の命名者であるドイツの地質学者ナウマンの研究を受け継ぎ、「サヌカイト」と名付け現在でも国際的に通用する学名として使用されています。
資料によると、「サヌカイト」は、この五色台や屋島をはじめとする香川県北部地域に広く分布する古銅輝石安山岩の一種で、硬さは硬度7程度、物理的な性質(弾性率等)は青銅とよく似ており、成分は二酸化ケイ素と酸化アルミニウムからできています。
約1300万年の昔、瀬戸内地域に起こった激しい火山活動によってマグマが地表に流出し、冷え固まってできた岩石で、地表から数メ−トルの深さにしか散在していないらしく、大きくても数メ−トルの塊であることや、地域の非常に狭い場所にしか存在しないし、また、石の成分がこの周辺に存在する他の石と著しく異なり、澄み切った音色を出す不思議な石です。
また、この岩石を含め、一連の火山活動にともなう火山岩類及び淡水性の堆積物は、讃岐層群と呼ばれ、香川県全域にわたって分布しており、模式的な重なり方は、国分寺町東奥から国分台の山頂に通じる遍路道沿いの崖にみることができ、下部より基盤の花崗岩の浸食面上に凝灰角れき岩、その上に火山角れき岩、讃岐岩質安山岩(古銅輝石安山岩でサヌカイトとよく似た岩石)、そして、サヌカイトの順に岩石が重なっています。

石器に使用されたサヌカイト

人類がこの地球上に初めてその姿を現したのは約250万年前とされていますが、日本での人類の足跡は約3万年前にさかのぼります。
「サヌカイト」と人間のかかわりあいも、3万年を越える旧石器時代に始まり、古代人は狩猟や武器の用具として、矢じりや石斧などに用いっていました。
この「サヌカイト」が、石器に多く利用される傾向は、次の縄文時代や弥生時代になっても変わらず、弥生時代の終わり頃の約1700年前までは、主に物を切ったりする刃物として盛んに活用され、生活に利用されていました。
3万年前から1万年前までを旧石器時代と呼んでいますが、この時代の遺跡が瀬戸大橋建設に伴って多数発掘調査されました。
調査では、与島西方遺跡では約13万点、羽佐島遺跡では約35万点を越える膨大な数の石器が出土し、全体の98%近くが「サヌカイト」を材料にしたものです。
また、「サヌカイト」以外では、安山岩、黒曜石、流紋岩、水晶などが出土していますが、北海道、関東、九州地方で石器として多く利用されている黒曜石は数十点と少なく、原産地が近くにあり、しかも割れると鋭い縁をもつ「サヌカイト」が石器に適しており、盛んに使われた様子がうかがえます。
サヌカイトによる石器製作方は瀬戸内技法とよばれ、放射状に破面が広がるサヌカイトの性質を利用した独特のものです。
この、黒くて緻密な溶岩に、はじめて注目した人のは石器時代の人々だったが、現在では石の楽器として注目され、太古のロマンに満ちた音が人々の心を魅了しています。

五色台の出土のいろいろな打製石器
尖頭器 ナイフ形石器 石鏃 石匙 石錐
    尖頭器       ナイフ形石器       石鏃     石匙      石錐

美しい音色の秘密

サヌカイトの硬度は7で水晶よりもやや硬いといわれています。
サヌカイトの美しい音色の秘密は、顕微鏡で見るとよくわかります。
同じ倍率で見た他の岩石と比べると、サヌカイトは大きい結晶(斑晶)がきわめて少なく、ほとんどガラス質や非常に細かい結晶の部分(石基)でできていて、 これはサヌカイトが特に急冷されて出来たことを物語っており、また、あまりに急冷されすぎて結晶として晶出できずに固まってしまったガラスの部分が多いのも、サヌカイトの特徴の1つで、たたくと金属音を発します。
針状の粒が一定方向に並んでおり全体が均質であるため、たたくと振動が打ち消し合うことなく均等に伝わり、美しい音を長く響かせるのだと考えられています。
サヌカイトは紀伊半島や九州北部でも産出しますが、音の良いのは香川県の金山、城山、国分台産だけです。
その美しい音色に魅せられてツトム.ヤマシタ等多くの演奏家に親しまれています。

サヌカイト岩質写真

サヌカイトは叩くと音域が広く、様々な高周波成分を含みます。
人間の耳に聞こえる周波数は高音を発したときの2万ヘルツが限界ですが、サヌカイトの場合100万ヘルツまで出す事が可能です。
サヌカイト石笛の場合叩くわけではないのですが、吹いてみると明らかに堆積岩とは異質な高音が出ます。
通常の石笛でも2万5千ヘルツほど出るので、サヌカイト石笛の場合更に高周波音が出ている可能性があります。
(参考 音の振動による、物質変化映像


瀬戸内火山活動

いまから1300万年前に,瀬戸内海沿岸に変わった組成の安山岩が噴火しました。
ふつう安山岩は,珪酸(SiO2,ガラスの大部分を占める成分でシリカともよばれる)が多く,酸化マグネシウム(Mg0)は少ないのですが,この地域の安山岩は珪酸も酸化マグネシウムも多いという特徴をもっており,このような安山岩を「高マグネシア安山岩」と呼んでいます。
高マグネシア安山岩マグマは,組成を変えずに地表に噴出することもありますが,マグネシウムは気化しやすいので減少し珪酸が増えます。
このマグマが噴火してできた岩石を「サヌカイト」と呼びます。
瀬戸内地域には,高マグネシア安山岩やサヌカイト,珪酸の量がもっと多いザクロ石をふくむ流紋岩などが分布していて,これらの岩石をひとまとめにして「瀬戸内火山岩」と呼ぶことがあります。

  

サヌカイトの破面

香川県産サヌカイトの平均組成
SiO2 二酸化ケイ素 62.60
TiO2 酸化チタン 0.58
Al2O3 酸化アルミニウム 17.45
Fe2O3 三酸化鉄 1.21
FeO 酸化鉄 3.89
MnO 酸化マンガン 0.12
MgO 酸化マグネシウム 2.17
CaO 酸化カルシウム 4.57
Na2O 酸化ナトリウム 4.13
K2O 酸化カリウム 2.50
H2O+ 0.30
H2O- 0.17
CO2 二酸化炭素 n.d.
P2O5 五酸化リン 0.21
Total 99.90

現在ではあまり使用されていませんが、赤の点線で示した部分が、瀬戸内火山帯と呼ばれている地域です。


2500万年前の日本、まだアジア
大陸にくっついている。
1500万年前、アジア大陸から分裂し、
日本海ができる。

1200万年前、東北日本は反時計回り、西日本は時計回りに回転しながら南下する。 400万年前、ほとんど現在の日本列島になる。

フィリピン海プレートは,いまから2000万年前にできたといわれており,その上に回転によって動いてきた西南日本がのしあがって沈み込みがはじまりました。1300万年前の瀬戸内火山活動は,このプレートの沈み込みによるものです。
しかし,マグマのできかたはふつうの沈み込み帯のものとずいぶんちがっていました。下の図はそのようすを示したものです。

プレート移動によって沈み込んだプレート(玄武岩)が堆積物である土砂を巻き込みマントルと反応すると、プレートが溶ける前に土砂が溶け始め、主成分であるSio2を多量に含んだ安山岩質マグマが出来る。
このマグマがマグネシウムの多いマントル層を通過して、瀬戸内火山帯の元となる高マグネシア安山岩マグマとなって地表に噴出する。
このように瀬戸内の島々の多くは、瀬戸内火山帯の造山作用によって形成されています。
サヌカイトはこの高マグネシアマグマが噴出した時に、ある適量の水で急冷された場合のみサヌカイトとなるそうです。(多すぎても少なすぎてもだめ)

赤色は山口県、愛媛県の高マグネシア安山岩及びサヌカイトの分布地域(手書きなのでだいたいのイメージです

 

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